短距離選手の睡眠管理|起床時刻・昼寝・試合前夜の整え方

濃紺の競技場と赤いトラックを背景に、架空の短距離選手が青い上着を着て練習後に帰宅の準備をするイメージ コンディショニング

短距離の練習を続けていると、走る本数や休息は記録していても、睡眠は「昨日はまあまあ眠れた」で終わることがあります。試合前夜だけ早く布団へ入り、眠れずに時計を見続ける人もいるでしょう。睡眠管理では、眠る機会、実際に眠った感覚、翌日の状態を分けて記録し、生活の中で変えられる点を探すことから始めます。

この記事は、主に大学生・成人の短距離選手が、普段の練習と大会に合わせて睡眠を整えるための実践ガイドです。中高生には年代別の目安を示しますが、成人の数値をそのまま当てはめません。不眠の診断や治療、眠るための薬・サプリメントの選び方は扱いません。

資料確認日:2026年10月28日。厚生労働省の現行掲載版「健康づくりのための睡眠ガイド2023」と、日本人アスリートの睡眠を測った一次研究を確認しました。一般向けの推奨、研究で観察された結果、編集部が提案する記録・準備の手順を区別して紹介します。

睡眠管理の出発点は「長さ・時刻・休養感」の三つ

「長さ」は眠る時間を確保できているか、「時刻」はいつ眠り、いつ起きるか、「休養感」は睡眠で休めたと感じるか、という観点です。どれか一つの数字だけを満点にしようとせず、組み合わせて見ます。長く寝床にいた日に、必ずよく休めているとは限りません。

短距離では、朝の集合、夕方の練習、授業、仕事、移動などが就寝・起床の予定と競合します。そこで、まずは普段の一週間を見える形にします。「練習を頑張れば自然に眠れる」と決めず、帰宅後の用事や翌朝の準備まで含めて、眠る機会を確保できる予定か確認してください。

以下の記録期間や変更幅は編集部の実践提案です。すべての選手で効果が実証された手順や、何秒速くなるという処方ではありません。生活に無理が出る場合は、本人だけで抱えず、指導者・家族と練習時刻や移動を相談する材料に使いましょう。

何時間眠ればよい?一般の目安を「競技者の上限」にしない

厚生労働省のガイドでは、成人は個人差を踏まえ、6時間以上を目安に必要な睡眠を確保することを勧めています。中学・高校生は8〜10時間、小学生は9〜12時間が参考として示されています。成人の「6時間以上」は、短距離選手なら6時間で十分だという保証でも、6時間まで削ってよいという意味でもありません。[1]

自分の予定を組むときは、今の睡眠時間、日中の眠気、朝の休養感を合わせて見ます。周囲が短い時間で活動できていても、その時間へ合わせる必要はありません。逆に、長く寝たという理由だけで練習への準備が整ったとも決めず、当日の体調と動きを確かめます。

中高生は、保護者と登校・部活動・課題の時刻を並べて相談してください。朝練のために起床だけを早め、帰宅後の予定は変えない組み方では、眠る時間が減ります。「大人の選手がしているから」という理由で、成人用の時刻例や生活パターンをそのまま採用しないことが重要です。

研究が示す「寝床の時間」と「睡眠時間」の違い

星川の報告では、日本人アスリート111名の夜間睡眠を、手首の活動を記録するアクチグラフという機器で分析しました。集団平均は、就床時間が7時間21分、総睡眠時間が6時間25分でした。両者は同じ数字ではありません。寝床にいた時間を、そのまま眠った時間と考えないことが、記録を読むうえでの要点です。[2]

これは2013〜2021年に収集した複数の研究データをまとめた報告で、特定の短距離選手だけの調査でも、睡眠を延ばして100mの改善幅を調べた実験でもありません。平均値を「理想の睡眠時間」として勧めることはできず、睡眠を何分増やせば何秒速くなる、という換算もしません。

日誌で把握するのは、本人が覚えている時刻と感覚です。機器で推定した睡眠時間と、自己申告の見積もりを同じ精度の測定値として扱わないでください。夜中に目覚めた回数を正確に数えようとして、時計を何度も確認する必要もありません。

まず一週間、朝に短く書く睡眠日誌

最初の一週間は、生活を大きく変えながらではなく、普段どう過ごしているかを記録する期間にします。ただし、明らかに眠る時間を取れていない状態や強い不調があるときに、記録のために改善・相談を先延ばしする意味ではありません。

朝に1〜2分程度で書ける量を目指します。時刻は分かる範囲の概算で構いません。「覚えていない」は空欄を推測で埋めるより正直な記録です。昼間の眠気は、授業中、仕事中、練習前など、同じ場面で追記すると比較しやすくなります。

項目 記録のしかた 分けて考えること
寝床に入った時刻/出た時刻 23:00/7:00のように書く この差は寝床で過ごした時間
眠るまで・夜間に起きた感覚 すぐ/しばらくかかった、など概算 時計で精密に測ろうとしない
朝の休養感 1=休めていない〜5=よく休めた この尺度は編集部の記録用。診断基準ではない
日中の眠気 いつ、何をしていて眠かったか 眠気と筋肉の疲労感を別に残す
昼寝と生活上の出来事 開始・終了、帰宅、練習終了、カフェインなど 原因を断定せず、同じ行へ事実を残す

休養感の点数は、チーム内の順位付けに使わず、本人の変化を見る補助にします。記録する項目を増やしすぎて続かない場合は、起床時刻、眠る機会、休養感の三つを優先しましょう。睡眠を完璧に管理しようとする作業が、夜更かしの原因にならない量が適切です。

記録例:8時間寝床にいても、8時間の睡眠とは限らない

次の時刻・数値はすべて架空の説明用です。実測値や研究結果ではありません。成人の選手が記録する形式を示しており、この時刻を全員へ推奨するものでもありません。

日 寝床に入る/出る 本人の記録 次に確認する点
月曜 23:00/7:00 寝つくまで約30分、途中の覚醒を合計約10分と見積もった 寝床8時間、睡眠の自己推定は約7時間20分。精密値ではない
火曜 0:00/7:00 帰宅後の用事が長引いた。朝の休養感2 眠る機会を削った予定は何か
水曜 23:15/7:00 休養感4。午後の眠気は少なかった 一日だけで変更の効果と決めない

月曜の7時間20分は、8時間から本人が見積もった40分を引いた計算例です。眠っている間の状態を直接測定した値ではありません。「分単位の計算ができた=正確に眠りを測れた」ではない点を押さえてください。

一週間後は平均だけでなく、短かった日、起床が大きく変わった日、眠気が強かった日を探します。平均7時間でも、ある日は5時間、別の日は9時間という場合と、毎日おおむね同じ場合では予定の課題が異なります。まず、次に変える生活上の問題を一つ選びます。

起床時刻から予定を組み、夜の用事を前へ移す

朝だけ早めず、夜の行動も一緒に見直す

登校・出勤・集合時刻が決まっている日は、朝食、身支度、移動に必要な時間を並べ、起床時刻を決めます。そのうえで十分な睡眠のための時間帯を確保できるか、夜の予定を逆向きに確認します。「眠れたら早く寝る」だけでなく、荷造りや洗濯を始める時刻まで書くと、改善できる点が具体化します。

編集部の変更案としては、まず荷造りやスマートフォンでの連絡を15〜30分前へ移すなど、実行可能な一つから試します。この幅は行動を調整する例であり、体内時計が必ず何日で変わると保証する数値ではありません。時刻を厳守するために睡眠を削るのではなく、眠る機会を増やす方向で使います。

休日の記録も同じ表へ残す

休日を記録から外すと、一週間の時刻の変化が見えません。朝は光を取り入れ、夜は明るさや画面利用を見直すという生活の整え方は、公的ガイドでも扱われています。[1]ただし、眠気が強い人に無理な早起きや追加の朝練を勧める話ではありません。

休みの日に大きく寝過ごす場合は、平日に眠る機会が足りているかも一緒に確認します。起床だけを責めず、夜遅い練習や移動、課題の締切を含めた予定の調整が必要か、関係者と相談しましょう。

夕方以降の練習日は「帰宅後の順番」を決めておく

練習後に必要な食事、入浴、用具の手入れ、翌日の準備を、何となく同時に進めると就寝が後ろへずれます。編集部の提案は、帰宅後に必須のことと、翌日へ回せることを書き分ける方法です。睡眠時間を作るために、必要な食事やケアを一律に省くことは勧めません。

例えば、翌朝使う物を練習前にまとめる、用具を乾かす場所を先に確保する、映像の細かい分析は別の時間へ移す、といった工夫があります。動画を確認する場合も、「この一本のスタートだけ見る」など終わりを決める方が、次々に別の映像へ移るより予定を守りやすくなります。

眠るために追加で激しい運動をする、練習が遅い日は睡眠不足を当然と扱う、といった対応は避けます。帰宅時刻が毎回遅く、本人の工夫だけで必要な時間を確保できないなら、練習の開始・終了や移動の変更を相談する段階です。

飲食では、カフェインを含む飲料・食品の種類と摂った時刻を記録します。眠気を抑える目的で量を増やすことを、睡眠不足への基本対策にしないでください。詳しい競技上の位置づけは、公開済みの短距離選手とカフェインの効果・注意点で整理しています。

昼寝は夜間睡眠の代わりにせず、練習との間隔も記録する

昼寝を使う場合は、長さだけでなく、いつ始め、いつ起き、その後の眠気と夜の寝つきがどうだったかを残します。夜間の睡眠不足を毎日昼寝だけで埋める計画より、まず夜に眠る機会を確保できる予定を検討しましょう。

編集部の試し方の一例は、昼食後の早い時間帯に15〜20分程度の休息枠を設け、アラームを使って終了時刻を決める方法です。これは全員に最適な昼寝時間として検証された処方ではなく、長く寝過ごさず様子を見るための設定例です。眠れなくても、時間を延ばして寝ることを義務にしません。

起きてすぐ全力疾走に入る予定は避け、目が覚めているか、普段どおり準備できるかを確かめる余裕を取ります。例えば14時から練習なら、昼寝の終わりが集合直前にならない予定にします。必要な余裕は本人の反応と活動によって異なるため、何分あれば必ず安全という一律の基準は置きません。

昼寝のあとにぼんやりする、予定より長く寝る、夜に眠る時刻が後ろへずれる場合は、その設定を続ける理由を見直します。昼寝をしなかった日との比較も、練習内容や前夜の睡眠が違えば、単純な効果判定にはなりません。

試合前夜だけで整えようとせず、移動と準備を先に済ませる

大会のタイムテーブルが出たら、招集時刻から逆算し、起床、朝食、移動、到着、ウォームアップを同じ紙に置きます。起床時刻を早める必要があるなら、直前の一晩だけ極端に早く寝る計画にせず、数日前から帰宅後の用事を整理できるか検討してください。

遠征では、部屋の明るさ、同室者の生活音、空調の調整方法を確認します。アイマスクや耳栓を使うなら、試合当日に初めて導入せず、普段から問題なく使えるかを確かめます。目覚ましや連絡が聞こえる必要も考え、同室者と消灯や朝の準備を相談しておきましょう。

前夜の持ち物確認は、必要な項目を一度ずつ照合し、終えたら何度も詰め直さない仕組みにします。試合調整全体は短距離の試合前一週間の調整法と組み合わせ、睡眠だけを独立した成功条件にしないことが大切です。

前夜に眠れなかった場合も、「もう走れない」「絶対に影響しない」のどちらにも断定しません。翌朝の眠気、体調、移動の安全、準備中の反応を確認し、指導者と予定を相談します。眠れなかった分を取り返そうと、慣れない飲料や薬を急に追加する対応は避けてください。

睡眠日誌を練習判断につなげるときの見方

朝の数字だけで、全力練習の実施・中止を自動的に決める表にはしません。睡眠が短かったことに加え、強い眠気、体調不良、動作の不安定さなどがないかを確認します。普段と明らかに違う場合は、その日の予定を指導者に伝え、内容を調整する相談をしてください。

記録には、前日の練習、筋肉の疲労感、学業や仕事の負担、風邪などの体調も簡単に残します。よく眠れた日にタイムがよかったとしても、計測条件や風、練習の順番が違えば、睡眠だけの効果とは言えません。最速の一本を日誌と結びつけて成功物語にしないことが重要です。

睡眠管理のメリットは、変更した予定と翌日の状態を振り返りやすくなることです。一方、点数へのこだわりや記入の負担が増えるデメリットもあります。記録によって不安が強まる場合は、項目を減らしたり、指導者・専門家との相談に切り替えたりすることを考えましょう。

成功・失敗・修正の説明用モデルケース

以下はすべて架空の説明用モデルケースです。実在選手の体験や研究の実測結果ではありません。成功とは自己記録更新ではなく、生活上の課題を特定して、確認できる条件を整えたことを意味します。

条件 変更点 架空の結果 判断基準
成功例:成人選手。帰宅後の準備で就寝が遅れる 荷造りを練習前へ移し、一週間記録 夜の用事が早く終わる日が増え、眠る機会を確保できた 変更が実行でき、日中の支障が増えていないか
失敗例:朝練に合わせ起床だけ1時間早めた 就寝までの予定は変えなかった 睡眠機会が短くなり、授業中の眠気が強くなった 早起き自体を成果にせず、眠る時間も確保できているか
修正例:昼寝の終了が練習直前になった 早い時間へ移すか、昼寝を入れない予定を検討 集合前の準備に余裕ができた。走力への効果は未判定 夜の睡眠と翌日の生活に悪影響がないか

変更は一度に重ねず、まず一つを選ぶと振り返りやすくなります。ただし、不調が強いときに原因調べを優先して同じ負担を続ける意味ではありません。睡眠記録は、困りごとを本人・指導者・専門家へ伝えるための道具として使います。

生活を見直しても困るときは、記録を持って相談する

眠る時間を取っても強い眠気が続く、寝つけない・何度も目覚めることで生活に支障がある、いびきや呼吸の停止を指摘される、といった場合は、単に意志が弱い、練習が足りないと判断せず、医療機関へ相談してください。公的ガイドも、睡眠の不調が改善しないときの相談の重要性を示しています。[1]

眠気が強い状態での運転や危険を伴う作業は避け、移動手段を見直します。相談時には、起床・就寝の記録、眠気が出る場面、服用中の薬などを、必要な相手へ伝えられるよう整理しましょう。処方薬は自己判断で中断・変更せず、薬の影響が気になる場合も処方した医師や薬剤師に相談します。

試合後に生活時刻が乱れやすい人は、翌日の予定まで含めて短距離選手の試合後リカバリーと練習判断を確認してください。翌日の予定を詰め込みすぎないことも、休養を確保するための準備になります。

よくある質問

短距離選手は全員、毎日10時間寝るべきですか?

今回確認した資料から、全員に共通する10時間という処方は示せません。年代、本人の必要量、日中の状態を見て、十分な睡眠を取れる予定を組みます。長さの競争にはしません。

一晩の睡眠不足でタイムはどれくらい落ちますか?

この2件の資料から、100m・200m・400mの短縮・低下幅を数値で予測することはできません。前夜の記録だけで結果を決めず、当日の体調と安全に準備できる状態かを確認します。

スマートウォッチの睡眠スコアだけで管理できますか?

機器の推定値と、自分の休養感・日中の眠気を分けて残します。点数だけで診断や練習の実施判断をせず、同じ機器・使い方での傾向を見る補助として扱いましょう。機器がなくても日誌は始められます。

眠れなかった時間を毎分記録する必要はありますか?

必要ありません。覚えている範囲の概算で十分です。記録を完成させるために夜中に何度も時刻を確認せず、翌朝に短く残してください。不明な部分は不明と書けます。

昼寝で夜の睡眠を短くしてもよいですか?

この記事では、そのような計画を勧めません。昼寝は夜の時間を削る理由にせず、日中の状態と夜の寝つきも含めて検討します。眠気が強く、生活に支障が続く場合は、昼寝の工夫だけで解決しようとしないでください。

寝つけないときにストレッチを増やせばよいですか?

量を増やせば眠れるとは判断しません。普段から行っている穏やかな準備を予定の範囲で行い、痛みを伴う動きや、眠るための追加トレーニングへ置き換えないようにします。眠れない問題が続く場合は相談を優先します。

まず始める一つ:明朝から三項目だけ残す

寝床にいた時間、起床時刻、朝の休養感。この三つを入口にし、必要に応じて昼寝や日中の眠気を加えましょう。一週間分を見たら、夜の用事を前へ移すなど、生活上の変更を一つ選びます。睡眠管理は、点数を上げるためではなく、練習と日常を無理なく続けられる予定を探すために行います。

参考資料

  1. 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」(2024年9月18日一部修正の現行掲載版)。年代別の推奨、環境・生活習慣、睡眠の不調への対応を確認。
  2. 星川雅子(2023)「日本人アスリートの睡眠習慣─アクチグラフを用いた計測結果─」Journal of High Performance Sport, 11, 96–105。2024年1月16日公開。DOI: 10.32155/jissjhps.11.0_96。

資料確認日:2026年10月28日。本文の記録表、準備手順、時刻の設定例は編集部の提案です。日誌とモデルケースの数値は架空で、短距離の記録向上効果を示す実測値ではありません。

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