「今日は何m走ったか」は書いていても、「同じ練習がいつもよりきつかったか」まで残しているでしょうか。短距離では、走った距離が少ない日にも、速い加速や長い休息を挟む練習があります。距離だけ、練習時間だけ、気分だけでは、その日の負担を比べにくくなります。
そこで練習日誌には、実際に行った内容・全体のきつさ・翌朝の状態を別々に残します。記録の目的は点数を増やすことではなく、次の練習で「続ける・減らす・相談する」の判断材料をそろえることです。特別な計測器は必須ではありません。
本記事は100m・200m・400mの通常練習を記録したい選手と指導者向けです。研究で確認された内容と、編集部が提案する日誌の運用を分けて説明します。けがからの復帰計画や、痛みがあるときの走行可否を決めるための診断表ではありません。
まずそろえるのは、内容・きつさ・翌朝の3点
最初から十数項目を毎日測ろうとすると、入力が目的になりがちです。まずは次の表の項目から始めましょう。表の運用は編集部の実践提案であり、研究で全員に最適と確認された組み合わせではありません。
| 記録するもの | 書き方の例 | 確認したいこと |
|---|---|---|
| 練習内容と実施量 | 30m×4、60m×2、本間休息4分 | 予定から何を変えたか |
| 時間と全体のきつさ | 75分、RPE 5、終了30分後に入力 | 同じ内容でも負担感が変わったか |
| 翌朝の状態と対応 | 睡眠は普段より短い、脚が重い、指導者へ共有 | 記録が次の判断につながったか |
「30m×4、60m×2」の走行量は240mですが、これは主練習として書いた距離だけです。ウォームアップのジョグ、流し、補強まで含む総量と混同しないよう、どこまで数えた距離かを欄の名前で示します。数字を詳しくする前に、数え方をそろえることが大切です。
短距離の研究から分かることと、分からないこと
研究で確認された範囲:Thomeらの2024年の研究は、競技水準の高い短距離選手18人を22週間、計681回の練習で観察しました。個人の最高速度に対する3つの速度帯ごとの走行距離と、RPEを使った練習負荷指標との関連を調べています。各速度帯の距離増加は負荷指標の増加と関連し、高い速度帯ほど距離当たりの関連が大きくなりました。[1]
これは、短距離の記録で速度帯を区別する意義を考える材料です。一方、観察研究なので「この量ならけがをしない」「この点数なら翌日も全力でよい」とは決められません。18人の結果を中高生や初心者へそのまま移すこともできません。
方法の基礎:Fosterらの原著では、練習終了約30分後に練習全体のきつさを0〜10の尺度で尋ね、それに練習時間を掛ける方法を用いています。対象は自転車運動とバスケットボールで、短距離だけを対象にした研究ではありません。[2]本記事ではこの計算を補助にしつつ、走行量と翌朝の状態を別欄に残す運用を提案します。
RPEは「その練習全体をどう感じたか」
RPE(本人が感じた運動のきつさ)は、タイムや心拍数とは別の情報です。練習後に「一番きつかった1本」ではなく、準備や休息を含めた練習全体を振り返って答えます。「頑張れた自分に何点をつけるか」という評価でもありません。
例えば、同じ練習を「いつもよりきつい」と感じた事実を残しても、理由までは確定しません。睡眠、気温、練習順、生活の忙しさなど、確認する候補が増えたと考えます。点数から原因を一つに決めつけないことが、日誌を役立てる出発点です。
| 数値 | 言葉の目安 | 使う際の注意 |
|---|---|---|
| 0 | 安静 | 休養日は練習なしと明記 |
| 1〜2 | とても楽〜楽 | 歩く速度などの固定基準にしない |
| 3〜4 | 中程度〜ややきつい | 他人の点数へ合わせない |
| 5 | きつい | 全体の感覚で回答する |
| 7 | とてもきつい | 高いほどよい練習とは限らない |
| 10 | 最大のきつさ | 毎回つける目標にはしない |
表は原著の言葉の目安を理解するための日本語の説明です。6・8・9も回答に使えますが、ここで独自の運動メニューを割り当ててはいません。チームに既存の尺度がある場合は、その説明を統一して使いましょう。6〜20の尺度を使った記録を、0〜10の記録にそのまま混ぜないでください。
入力する時刻と、数える時間の範囲を先に決める
編集部の運用案は、練習終了約30分後に全体のRPEを入力する方法です。時間を空ける考え方は原著に沿っていますが、移動中などで入力できなかった場合は、回答時刻も残します。翌朝に思い出した数値を、毎回終了30分後に答えた数値と同じ条件として扱わないためです。
時間は、チームのルールがあればそれを優先します。新しく始めるなら、ウォームアップ開始からクールダウン終了までを基本とし、予定された本間休息は含める、通学や着替えは含めない、と決めておくと整理しやすくなります。これは編集部の集計ルールの例です。
雨による長い中断や施設の順番待ちがあった日は、実際の経過時間と中断時間を併記します。中断を除いた時間で計算する場合は「中断除外」と明記し、同じ方法の記録同士で比べます。後から都合よく時間の定義を変えると、練習が軽くなったように見えてしまいます。
午前の走練習と午後のウエイトが別の時間帯なら、別セッション(ひとまとまりの練習)として記録します。続けて実施した日は、全体を一つで残すか分けるかを先に決めます。今週だけ細分化し、来週は全部まとめる運用を避けてください。
「RPE×分」で計算できるが、点数は回復残量ではない
練習負荷の目安は、練習全体のRPE×練習時間(分)で求めます。単位は便宜的な値で、消費カロリーでも、筋肉の損傷量でもありません。以下はすべて計算のための架空の数値例で、選手の実測値や研究結果ではありません。
- 75分、RPE 5なら、5×75=375。
- 90分、RPE 4なら、4×90=360。
- 60分、RPE 6でも、6×60=360。
後ろの2つは同じ360ですが、練習の中身が同じとは限りません。短い加速を少本数行う日と、長めの走りを繰り返す日では、同じ点数でも確認すべき内容が変わります。点数を一つにまとめた利点は比較しやすさであり、欠点は中身の違いが見えにくくなることです。
また、RPEは本人の感覚の尺度です。「負荷値が2倍なら身体への影響も厳密に2倍」とは読めません。大きな差を見つける入口に使い、その後で距離・速度・休息・補強内容を確認しましょう。点数が低い日でも、速い走りを追加してよい許可証にはなりません。
短距離では、距離の横に速度・休息・本数を残す
主練習の距離だけでは、加速、最高速度、スピード持久力を区別できません。日誌には「何を狙った走りか」を一言添えます。例えば「30mの加速」「助走をつけた20m」「150mの速度維持」のような区分です。これは練習を設計するためではなく、実施した内容を読み返すための名前です。
フライング走なら、助走30m+計測20mを2本、という形で助走と計測区間を分けます。計測区間は合計40mですが、その40mだけを当日の走行量と書くと、助走部分が抜け落ちます。減速区間まで測れていなければ「減速距離は未集計」と残し、正確さを装わないようにします。
計測器がない場合は「最高速度の90%以上を何m」と確定しないでください。全力感、設定タイム、実際の走速度は別の情報です。「速い動きを狙った走り」として距離を記録し、研究の速度帯別距離とは区別します。最高速度を出していない日に、確認のためだけに全力走を足す必要もありません。
ウエイトは種目・重量・回数・セット数、跳躍は種類・回数・着地する路面を添えます。走行距離が少なくても、補強や跳躍を増やしていれば内容は変わっています。各数値を無理にmへ換算せず、それぞれの単位で残す方が変更点を追いやすくなります。
比較は「自分の、似た練習」から始める
記録を始めたばかりなら、まず2週間ほど入力の練習をし、その後もデータをためます。2週間という期間は入力を習慣にするための編集部の提案で、身体の正常値を判定できる期間ではありません。週1回しか行わない練習なら、比較材料がそろうまでさらに時間が必要です。
見返す順序は、①同じ種類の練習、②近い距離・本数・休息、③近い環境、④本人のRPEです。加速練習と400m向けの走り込みを、点数の大小だけで競わせません。自己ベストの異なる仲間の点数を並べ、「負荷が低いから努力不足」と判断するのも避けます。
架空の説明例では、同じ75分の加速練習が、通常はRPE 4〜5、今回は7だったとします。この差だけで疲労蓄積を断定せず、休息が短かったか、暑かったか、前日に別の練習があったかを確認します。条件が違えば「同じメニュー名でも別条件」として残す方が正確です。
週合計を作る場合も、同じ時間の定義で記録した値だけを足します。合計が前週より増えた理由を、練習回数・1回の時間・RPEに分けて確認してください。特定の増加率や合計点を、全員共通の「安全な範囲」「危険な範囲」として設定する運用は本記事では提案しません。
翌朝は点数を足さず、具体的な変化を読む
翌朝の記録は、RPEをもう一度尋ねる欄ではありません。睡眠の取れ方、普段と比べた脚の重さ、痛みの有無、予定の変更理由を短く書きます。主観的な状態をすべて足した独自の総合点にすると、一つの重要な変化が他の項目に埋もれることがあります。
| 確認する変化 | 日誌に残すこと | 編集部の対応案 |
|---|---|---|
| 普段と大きく変わらない | 予定どおりか、準備中に変化したか | 通常の準備を行い、動きと体調を確認 |
| 同条件でもきつさが増え、脚も重い | 前日までの内容、睡眠、生活上の変化 | 開始前に共有し、本数・種目・休養を相談 |
| 痛みや普段と違う動作がある | いつ、どこに、どの動作で出たか | 日誌の点数で続行を決めず、指導者・専門家へ相談 |
この表は診断基準ではありません。「RPEが低かったから痛みも問題ない」「眠れたから昨日の違和感は消えた」と読み替えないでください。ウォームアップの組み方は試合前ウォームアップのガイドも参考になりますが、確認のために痛みの出る動作を繰り返す必要はありません。
変更した内容と、その日の終了後の状態まで記録すると、次に同じ状況になったときの相談材料になります。翌日の判断を含む回復の流れは、試合後リカバリーと練習判断で整理しています。
そのまま写せる練習日誌のテンプレート
紙でもスマートフォンでも、次の順に1日1行ずつ記録すれば始められます。入力時間は、終了後と翌朝に各1分程度を目指す運用案です。細かい分析は毎回ではなく、週に1回、同じ練習を見返す時間へ回します。
- 日付・種目・目的:__/__/__。
- 実施内容:距離×本数、休息、計測区間、補強内容。
- 練習時間:__分。中断:__分。集計ルール:__。
- 全体のRPE:__/10。回答時刻:終了__分後。
- 負荷の目安:RPE__×__分=__。
- 条件:気温や路面、靴、計時方法、普段と違う点。
- 翌朝と対応:睡眠、脚の重さ、痛み、予定の変更と理由。
未入力と休養は分けます。完全休養日は「練習なし」と書き、RPEや時間を計算していない日は空欄と理由を残します。記入忘れを後から0として埋めると、週合計が実際より小さく見えます。体育、別競技、普段より多い移動などは参考メモにし、測っていないものへ正確そうな点数を付けないでください。
睡眠は、寝床に入っていた時間と実際に眠れた感覚を区別すると、日誌を読み返しやすくなります。細かい記録方法は、短距離選手の睡眠管理で確認できます。
説明用モデルケース|変更と結果を分けて残す
以下の2例は架空の説明用モデルケースです。数値・経過は研究結果や実際の選手の記録ではなく、記録をどう判断につなげるかを示します。
記録が相談に役立った例
条件:100m選手が、同じ加速中心の練習を75分で実施。これまではRPE 4〜5だったが、今回は7で、翌朝も脚が重いと記録した。前夜の睡眠も普段より短かった。
変更点:指導者と相談し、次の練習は予定の加速4本を2本に減らす案を用意。開始前と準備中の状態を確認し、追加走はしない方針にした。これは減らし方の説明例であり、一律に半分にする処方ではない。
結果:2本を実施して終了し、終了後はRPE 3、翌朝は重さが前日より小さいと記録できた。判断基準:負荷軽減と状態の変化を並べて確認できたが、回復した理由や競技力の改善までは断定しない。次回の負荷も準備中の様子と合わせて相談する。
数字だけで追加して失敗した例
条件:400m選手が、短い加速練習と長めの走りの練習を、どちらも負荷値360だったと記録した。練習内容の違いを読まず、「今日はまだ余裕がある」と考えた。
変更点:点数を上げようとして、予定外の150m走を1本追加した。結果:追加走で予定したタイムを外し、終了後のきつさも増えた。判断基準:同じ負荷値を、同じ身体の状態と見なした点を見直す。次回は元の練習目的・速い走りの本数・翌朝の状態を確認し、点数合わせの追加をしない。
記録のメリットを生かすために、比較条件を守る
この方法のメリットは、費用をかけずに始められ、同じ練習の負担感の違いを言葉と数値で共有できることです。デメリットは、回答の仕方や時間の数え方に左右され、局所的な痛み、技術の変化、速い走りの量まで一つの点数では表せないことです。
指導者は、選手の回答を見る前に予想のRPEを別に残すと、予定したきつさと実際の感覚を比較できます。「今日は4のはず」と先に伝えたり、低い点数を褒めたりすると、本人の回答が変わる可能性があります。日誌を評価や罰の材料にせず、相談の材料として扱いましょう。
タイムを併記するときは、手動か機器か、距離やスタート方法、風や路面もそろえます。小さなタイム差が出ても、日誌を始めた効果、練習変更、靴の効果などへ直結させません。変更した項目が多ければ、どれが影響したかを特定することは難しくなります。
よくある質問
同じ練習でRPEが上がったら、必ず休むべきですか?
それだけでは決まりません。実施条件、前日までの内容、睡眠、翌朝の状態を確認するきっかけにします。痛みがある場合は別に扱い、点数が低いことを続行の根拠にしないでください。
100mの全力走をしたら、練習全体のRPEも10ですか?
必ずしもそうではありません。1本の全力感と、休息や準備を含めた練習全体のきつさは別です。全力走の有無・本数は内容欄へ残し、全体の回答を上書きしないようにします。
週合計が何点以下なら安全ですか?
本記事から全員共通の安全点数は設定できません。本人の似た練習同士を比べ、合計が変化した理由を読みます。低い点数でも、速い走りや補強が普段と違っていないか確認します。
中高生でも使えますか?
感覚を言葉にして共有する練習としては始められます。ただし、競技水準の高い選手の研究で得られた数値を目標にせず、まず指導者と尺度・入力時刻・時間の定義をそろえます。勉強や体育などの予定も、点数とは別のメモに残しましょう。
書き忘れた日は、推測で埋めてもよいですか?
推定なら「翌日記入・推定」と明示します。正確に答えた記録と区別し、空欄を0にしません。続けにくければ項目を減らし、内容・きつさ・翌朝の3点へ戻します。
まとめ|点数の横に、何を変えたかを残す
短距離の練習日誌は、距離や負荷値を増やすための表ではありません。走った内容と休息、本人のきつさ、翌朝の状態を別々に残し、同じ条件の自分の記録と比べます。点数だけで安全や効果を決めず、相談した内容と実際の変更まで書くことが、次の練習に使える日誌への第一歩です。
参考文献・参考資料
- Thome M, Nimphius S, Jordan MJ, Thorpe RT. Relationship Between External Training Load and Session Rating of Perceived Exertion Training Impulse in Elite Sprinters. International Journal of Sports Physiology and Performance. 2024;19(8):792–797. 著者所属大学の研究記録・抄録。短距離選手18人・681回の観察範囲を確認。全文未確認のため、抄録にない手順や因果効果は記載していません。
- Foster C, et al. A New Approach to Monitoring Exercise Training. Journal of Strength and Conditioning Research. 2001;15(1):109–115. 原著PDF。図1および方法を確認。方法の基礎資料として参照し、短距離での解釈は[1]と分けました。資料確認日:2026年11月5日。



